creconte’s blog

映画感想多め。本・マンガ・ドラマetc.扱う予定。歴史・政治・社会・サスペンス・アングラ・官能等

オフィサー・アンド・スパイ(2019)

(原題はJ'accuse。ゾラの有名な見出し「私は弾劾する」)

一部ネタバレ注意。

 

ポランスキー監督作品。

19世紀末フランスのドレフュス事件軍事法廷サスペンス。

 

ドレフュス事件には前々から興味があり、本も軽くだが、1,2冊ほど目を通したことがある。が、なかなかピンとこない。ところに出会ったのが本作。

先回記事(「ジャック・ザ・リッパー」)と同時期を扱っているにも関わらず、こちらはとても良かった。

単純に制作年代だけでも丸20年違うから、比較もフェアではなかろうけど。

 

主人公は、ドレフュスの士官学校時代の教官で、新たに防諜部長に赴任したピカール中佐。ピカールが、防諜部内でドレフュスを有罪付けた証拠の杜撰さに気づき、隠蔽を続けようとする陸軍首脳部と闘っていく。

 

自分は、フランス近代史にも割と興味のあるほうだが、「切り口」全体に対して、あまりピンと来てないところがある。フランス国家や社会の成り立ちや、フランス人の性質やものの考え方といった根源的な部分がよく分かってないからだ。この「第三共和政」(現代のフランスは「第五共和政」)の時代は、特に掴みにくい時代だと感じる。

本作では、当時のフランス社会の右翼的な空気感と反ユダヤ主義というものが描かれていたのでそうした視点で有難かった(ゾラの書物の「焚書」のシーンや、ダビデの星が描かれユダヤ商店が打ち壊されるシーンなど)。

 

「ピンと来ない」のは当然のことで、本作で描かれるような、基本的な事件や、政治構図が分かってなかったからだ。例えとして妥当か分からないが、外国人に、いきなり忠臣蔵新選組のストーリーを示すようなものだろう。

登場人物も多いし、政治構図も複雑で、なおかつ後代に与えた影響も甚大である。

ピカールはのちに陸軍大臣へと出世するし、事件当時オーロール紙(ゾラの声明を掲載)の編集長だったクレマンソーも、のち首相へと登り詰める)

 

間違った感想かもしれないが、この早い時代に、「法治主義」や「反差別」を争点とする重大事件を通じて、「社会の近代化」が成された、という点には少々羨ましさも感じた。

 

興味深かったのは、このころの犯罪捜査も意外と「科学的」だった、というのが描かれていたことだ(尤も、その不備ゆえにドレフュスは当初有罪とされるのだが)。

筆跡鑑定のプロセスが精細に描かれていたのが良かった。

 

もう一つ、文化的・歴史的な視点かもしれないが、「乗っている護送車を止めて、収監者が直接新聞を買う」シーンが「おお…!!」と思い、とても面白かった。

 

歴史的関心を、十分に深めてくれる意味でも、丹念に作り込まれた好作品。

ドレフュスやユダヤ史については引き続き追いかけていきたいし、また、ゾラは、日本ではもっぱらドレフュス事件の絡みでしか触れられないが、彼の文学作品自体も、とても興味深いものだ。「いつかは触れたい」と思ったまま、ずっと放置してしまっているが…笑

(「黒歴史」かもしれないが、昔、他ブログで、ゾラの「私は弾劾する」の紙面画像をプロフィールのサムネイルに使っていたことがある)