creconte’s blog

映画感想多め。本・マンガ・ドラマetc.扱う予定。歴史・政治・社会・サスペンス・アングラ・官能等

わたしは金正男を殺してない(2020)

2017年の、クアラルンプール国際空港金正男暗殺事件とその後の政治的経過、そして2人の「実行犯」の女性2人(インドネシア人シティとベトナム人ドアン)の裁判を克明に追ったドキュメンタリー。

衝撃的な事件だったが、気づけばかなり前の事件だ。その後「犯人」とか「真相」がどうだったか、などは当然頭から消えていた。

 

今北は、タイムリーに、狡猾な地震見舞いのメッセージを岸田首相に送って揺さぶりをかけてきたところだ。

そして個人的には、年初ちょうどインドネシアに旅行に行ってきたところだった(物語の主人公シティは、ジャカルタ郊外のランカスムルRancasumurの出身)。

 

金正男は、小泉政権時代、家族ぐるみで東京ディズニーランドに遊びに来て、政治事件になったことで記憶に残っていたが、それがきっかけで北の後継者レースからは外れたというから、奇縁?にも思った。

 

ドキュメンタリーはほぼ大団円の結果に見え、そうではなかった。

北朝鮮、というより金正恩パーフェクトゲームだったからだ。

マレーシア司法も腐敗していたが、それ以前に外交でも北が一枚上手だったから、その尻拭いをさせられたと見るべきだろう。

 

北朝鮮の工作活動については、拉致問題もあり、ある程度日本でも知られている筈だ。

今回の暗殺事件でも、仕込みから実行、事後処理まであまりに周到と言わざるを得ない手際で感嘆すらした。

良いように駒にされた女性たちは悲運であり気の毒としか言いようがないが、また一方で、活気あるアジアの国際的大都市クアラルンプールの「闇」に呑み込まれた面もまた否めないだろう。

(彼女たちの動員されたYouTube の「イタズラ」でも、北朝鮮人から「日本ではこういう企画がウケる」などと説明されており、北からまたも日本がダシにされていることに失笑しかなかった)

スケープゴートにされた2人に芽生えた友情には心温まるものを感じたが、また彼らの背景(出身国家の政治事情)の差異ゆえに一時的に引き裂かれた運命に悲劇も感じた。

 

暗殺に用いられたVXガスは、オウム事件でも有名になった強力な毒ガスでもある。

というより、北はそうした事件も下敷きにしてやしないかと勘繰ってしまう。

 

遠いようで非常に近い、自分(自国=日本)自身に突き付けてくる要素が多過ぎるドキュメンタリーで、ところどころ胸が締め付けられるような苦しさを感じた。

それでいて、YouTubeSNSを巧みに駆使した現代型工作活動の有り様が浮き彫りにされてもいる。

国際政治の生臭いやり取りが見える一方で、「国が国民を救う」役割をきちんと果たすのを意外に感じたのは、「自己責任切り捨て国家日本」に毒されすぎているせいだろう。笑