イラク戦争下の米国の、実話をもとにしたインテリジェンス系サスペンスからの、圧倒的政治権力への抵抗に転じた夫婦の物語。
事態が三転四転ほどして、考えも感情もぐわーっと次々に別の所に持っていかれた。確かに傑作。
ここでは、どんな具合いで感想が転じたのか整理しておこう。
最初は、イラクへの大量破壊兵器の有無云々から米国が「開戦」に踏み切るまでは、当時の情勢とか、自分自身のスタンスなどを緩く想起していた。
・イラク戦当時は、「日本」、というか当時小泉政権側に立った物の見方をしていた。
米ブッシュ政権の強弁に無理がありそうとは感じたが、査察の精細な過程にまで興味は寄せてなかった。
・ISISは、イラク戦争の強烈な「副産物」または「鬼子」であることも、ごく最近知った(それもアマプラのドキュメンタリー経由)
ホワイトハウスが保身の為にCIAエージェントの身元をリークし、メディアを使った卑劣で容赦ない反撃に転じたのは、これまた安倍政権当時が生々しく思い出されて胸がムカムカしてならなかった。
夫妻は家族破綻の危機に瀕して、「一体どうなるの?」と最後まで目が離せなかった。
・民主主義のワナ
トランプにグチャグチャにされる米大統領選を見てもわかるが、権力者の「保身の装置」として恣意的に利用されることに、民主主義のシステムは比較的無力だ。
そのような運用は、制度設計時に十分想定されてないからだ。
並の個人なら、当然捻り潰されてしまうのがオチだ。
・真実は、存在に確信はあっても、「力」と「強さ」がなければ守り通せない
「最後に生き残ったものが勝つ」
皆が闘える訳でも、闘い抜ける訳でもない。
だが、生き抜いて初めて「証言者」としての権利を得、歴史叙述への有力な参画権が得られるのもまた事実だ。
・「ペンは剣に勝てない」
筆者は、むのたけじという戦争下を生きたジャーナリストの言葉を重く受け止めている。
「正論」を主張しても、それが「力」にならなければ政治的に対抗できない。
・「歪んだ世界」、特に「暴力で歪められた世界」は、「元には戻れない」
「覆水盆に返らず」という言葉がある。
イラク戦争が「誤った戦争」だったとしても、それを証明できても、「始まる前」に戻ることはできないのだ。
「フェア・ゲーム」というタイトルには、痛烈な皮肉が幾重にも込められている。
(映画内に出るセリフでは「最適な攻撃対象」と訳されていた。名訳だろう)
主人公夫妻が、実名なのには驚いた。
参考までに(というより筆者自身の覚書として)。
(ただ2人は離婚後、ジョーの方は亡くなったようである)
また、本編では、アーミテージをモデルとする人物も登場する。
また、本編と直接関係ないが、英ブレア政権時、大量破壊兵器報告に関与して自殺した科学者のことも思い出した。
「一般市民」側の視点とすれば、リアルタイムの状況下では「精細な事実」に触れる余裕がなくとも、後からその余裕が出てくることはある。
キャパがないことも当然含めて、「踊らされない為に敢えて触れない」(言わば「語り得ぬものへの沈黙」)こともまた、重要な「良識」ではないかと考える。
「行動こそ正義」と信奉する人は多いが、「過ちは加担してからでは遅い」のもまた真実なのだ。