秩父事件を正面から取り扱った作品。
死刑判決を受けるも、逃亡先の北海道で、死に際に初めて秘し続けた来歴を家族に語り明かす、首謀者の1人井上伝蔵が主人公。
秩父事件は、明治期最大の民権運動激化事件という基礎事実以外は何も知らなかった。
松方デフレ政策下で破産(「身代限り」という用語が出てくる)に追い込まれた生糸農家たちが、一部良心的商人や民権運動家などと語らい決起した。
当時の空気感がよく伝わってくる。
印象としては、主線は「農民一揆と打ちこわし」であるのだが、決起者たちの意図は「天朝様に敵対する」、即ち共和制を樹立しようという「革命」目的にあったらしい。
(片方で、「天照大神宮」の掛け軸がかけられた一室で、反乱の相談をしていたのがとても面白かった)
「国事犯でなかったのが無念でならん」という伝蔵の言葉が印象的だった。
確かに近世的「一揆・打ちこわし」である一方で、農民たちは鉄砲も手にしてかなり統率された動きをしていた。
片や、警察と没落士族の「抜刀戦」もまだ健在である。
(当時はありがちな)空頼みではあったものの「各地の連動蜂起」というのが本当に可能だったなら、確かにもっと明治政府を脅かすことは出来たかもしれない。
主人公緒方直人は非常にハマっている。
義・冷静さ・熱と、それらを兼ね合わせた「厚み」というものを端的に表していた。